祓師(はらいし)REIKA(04)

beautiful schoolgirl エッチな小説
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来来来世(後編)

作:星乃乙人

「いい? 結界内では霊は弱まるのじゃなくて、むしろ強くなる。だから、相手の声も聞こえるし襲ってくることもあるから気を付けて。あなたの身は守るから心配しなくていいけど」

「はい……」

これから、起こることに対する不安もある。だけど、マサトに付きまとわれることから解放されたかった。

「祓いの途中で気になることがあったら、ワタシか星乃に訊いてね」

ネットで予約していたエリアは普通の住宅街だった。

辺りはしんと静まりかえっている。

結界内は心霊、妖の住まう世界。

現世と幽界が交わる場所らしい。

だから、住んでいた人間はみんな引っ越してしまい、もぬけの殻だ。

道路の真ん中に星乃が小さな祭壇を準備して、お香を炊いた。

玲花が鈴(りん)を鳴らす。

ゆっくりとしたリズムで数分鳴らした時だった。

目の前にマサトの霊が姿を現した。

まるで生きている人間のように二本足で立っている。

玲花はマサトの霊と対峙する。

「さあ、覚悟なさい!オナニー野郎」

玲花が言った。

「クソJKがあ!黙ってろー!」

マサトが凄むと一瞬、身体が大きくなったように像がぶれた。

「はい、はい。じゃあ、行くよ」

言うなり、玲花は前かがみに走り、拳を構えてマサトの頬に正拳突きを食らわす。

除霊とかって、お札とか九字とか、お経とかを想像していたので面食らった。

「いってぇ!このアマぁ!」

マサトが痛みを訴える。心霊も痛みを感じてるのか?

「ふん。痛み、感じないと思った?この結界の中じゃアンタたちは、生きていた時と同じように痛みも苦しみも味わうことができる。さあ、続きだよ」

そう言うと、玲花は殴る蹴るの猛攻を再開した。

マサトは喧嘩は得意ではないのだろう、不憫に思うほど防戦一方だった。

そして、玲花の蹴りは股間を捉える。

「はう!」」

マサトは前かがみになり膝をついた。

玲花の前で膝をつき、うずくまる。

なんだか、身体が小さくなったように見える。

苦悶の表情を受け、マサトが私の方を向いて手を伸ばす。

「リリモカさん……。俺、本当に君と一緒になりたかっただけなんだよぉ」

すがるような目。

「大丈夫。答えなくてもいいですよ」

私を守るように、控えていた星乃が言った。

「それで、心中して来世で一緒になろうって?呆れた」
玲花が言い捨てる。

言い捨てた後、玲花はしゃがんでマサトと同じ目線になった。

「でも、今アンタがやっていることって、幽霊になってまで彼女に付きまとって苦しめてるだけじゃん」

「俺だってどうしたらいいか……、わかんないんだ。あの世はどこにあるんだよ。こんなクソみたいな世界嫌だ」

マサトは泣きながら嗚咽を漏らす。

「ニートだったんだ……。リリモカさんにはプログラマーって嘘ついてたけど……」
なんとなくは、気が付いていた「嘘」だと。

「ずっと、俺をかばってくれていた母さんが、急に倒れて。ほんと、急に……。救急車で運ばれて……。そして、そしてそのまま帰らなかった……」

「いいよ。続けなさい」

訥々と語るマサトに、玲花は続きを促した。

「葬式が終わると父さんと姉さんに面と向かって言われた。『おまえもそろそろ、自立しなさい』。ハロワに連れていかれたり、親戚づての会社に連れていかれたり……。でも、ダメだった。どこに行ったってやんわりとお断りされたよ。やんわりと……。直接的ではないけれども、『必要ない』ってさ……」

実は、私もどこかでマサトと同じように感じていた……。

私は必要とされているのかと……。

「早く死にたい……。ずっと、思ってた……。マッチングアプリに、嘘のプロフィールで登録して、偽りの自分を演じているときは、妙に高揚した……」

分かる……。私も、自分を偽る。

「リリモカさんと出会って、リモートだったけどいっぱい話して、会社での愚痴を言いあったり……。俺はの架空のエア上司だけど……。そして、リリモカさんの提案でリモートでセックスして……。一緒にイったとき、リリモカさんと繋がっている感じがしたんだ……」

そう、リモートだったけど何度も同時に果てた……。

「今は、クズみたいな俺だけど、やり直せば、最初からやり直せば、リリモカさんと一緒になれるって、本気で思った……。いや、そう思い込もうとしたのかも……」

私は、そんな彼をあっさり切り捨てた。

再び、マサトが視線を向ける。

彼らと私たちには大股で10歩くらいの距離があった。

「玲花さん。彼に近づいてもいい?」

危険かもしれない。

私はダメもとで玲花に訊いた。

玲花は頷き、星乃に目で合図を送った。

星乃が私を守るように、先導する。

左手にはスマホを掲げ、画面にはお経のようなものが映し出されている。

万が一に備えてくれているようだ。

そして、マサトの目の前にたどり着いた。

「リリモカさん……」

マサトが私を見上げる。

「触れても大丈夫?」

玲花に訊いてみる。

一瞬、考えるような間があったが、私の目を見てしっかりと頷いた。

マサトの両手にそっと触れる。

生きた人間と違い、冷たさも温かさもない不思議な感覚。

だが、触れることはできた。

「リリモカさんの手、温かいよ……」

彼は私の掌から温もりを感じ取っているのだろうか。

「マサトさん。私もさ……。無能な上司のフォローして嫌になるとか、営業のプレゼンがうまくいったとか、仕事でうまくいってるようなことも言ってたけど……。ほとんど嘘。本当の私は、失敗ばかりでフォローしてもらっている方だし、正社員じゃないから契約更新が近づくと切られないか冷や冷やしてる……。でも、君とリモートでセックスして、一緒に絶頂したのはホントだよ。気持ちよかったよ」

マサトが纏っていた、冷たく重い邪気のようなものがもっと軽い靄のようなものに変わった。

「ごめんなさい。付きまとって、怖い思いさせて……」

マサトが謝る。

「怖くて、最近、全然眠れなかった……」

「俺もどうしたらいいか分かんないんだ……。何処へ向ったらいいか……」

「大丈夫。それはワタシが教えてあげるから」
玲花が話に入る。

「俺、死んじゃったから……。もう、リリモカさんに会えないよね?」

「大丈夫よ。今生で結んだ縁が切れるわけじゃないから、リリモカさん次第だけど」
玲花が私の意志を確認するように目を向けた。

「私は、マサトさんとの縁を残したい……」

ほんのひと時でも、私のことを思ってくれた人。

「良かったね。結んだ縁のおかげでいつか会えるよ、きっとね。まずはあの世に行かないと、来世は永遠に来ないけど」

「来世で、君と出会えたら分かるかな?」

「来世でもそのまた来世でも……。私を見つけてくれる?」

「きっと、見つける。その時はきっと、まともな人間になって、いい男になって、君にプロポーズするんだ」

「っつ!プロポーズしてくれるの?」

プロポーズという言葉が嬉しかった。

そんな言葉誰からも聞いたことない、初めての言葉。

この人は純粋な人だと思った。

今の世の中は純粋な人ほど生きづらい。

「ありがとう。きっと、見つけてプロポーズしてね」

そう言って、私はマサトの唇にキスをした。

「っ!」

隣で玲花のあわてる様な気配がしたが、咎められなかった。

マサトの身体から光の粒子がにじみ出てくる。

玲花は立ち上がり、祝詞のようなお経のようなものを唱え始める。

唄のように独特の節をつけて、優しい調べだった。

マサトからにじみ出る光が強くなる。

「リリモカさん。身体壊さないで。あまり変な男とばかり付き合ったらダメだよ」

マッチングアプリで男漁りをする私のことを心配してくれていたのだろうか。

「うん……」

マサトの身体が溶けて、光の玉になった。

しかし、何処へ向かったらいいかわからず迷っているのか、ゆらゆらと同じ場所を漂っている。

玲花が虚空の一点を指さし、光の玉に「ふう」と優しく息をかけた。

光の玉はゆっくりと明滅しながら、その一点をめがけてゆらゆら飛んでいく。

そして、ひゅっと消えた。

「彼、成仏できた?」
玲花に訊いた。

「ええ。大丈夫よ。あちらはずっと優しい世界だし。憎しみも後悔も何もない」

「そう、良かった」

なんだか、不思議な喪失感が胸に刺さる。

「星乃。終わったから協会への報告ヨロシクね」

「はい。お疲れさまでした玲花さん」

あの一件依頼、私はマッチングアプリでの男漁りを卒業した。

男漁りに使っていた時間を料理や読書に変えアラフォーで今更だが、自分磨きを始める。

特に最近、はまっているのは図書館通い。

いろいろな本に出会えるしお金もかからない。

休日に、以前ネットで見つけた「祓師」についての投稿サイトを開く。

そして、REIKA事務所についてレビューした。

「美少女JK祓師と、気持ちの優しい助手が迎えてくれる。除霊の腕前は申し分なく、なによりも温かい気持ちにさせてくれた。評価は文句なしの★5」

◇エピローグ
「いやぁ~。彼女がマサトにキスしたときはちょっとあせったわあ~」
玲花はお気に入りのソファにだらしなく横になりながら言った。

戦闘服でもある着物から、今はゆったり目の長袖シャツにチェックのミニスカートを履き、スカートから伸びる細く健康的な脚にニーハイという姿でソファに脚を投げ出す。

「玲花さん。あの、パンツ見えてますけど」
星乃が遠慮がちに指摘する。

「はっ!?助手のくせにワタシのパンツ見るとは、ナマイキ!」
そして、帰りに商店街で買った揚げたてコロッケを油紙ごと二つ手にする。

「あっ、また僕の分まで――」

「うるさい!『祓い』は結構カロリー消費すんの!」
そういって、小さな口でコロッケをほおばった。

「アっつ!」

「もう、猫舌のくせに欲張るから……」

「星乃~。水、水頂戴!」

「やれやれ……」
阿吽の呼吸で星乃がコップの水を差しだす。

「REIKA 祓師事務所」
さびれた商店街の一角。
某雑居ビルの2階。
そこには騒がしくも暖かい、女子高生祓師が居る。

「来来来世」

 ――完――

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